本年度は、昨年度から継続して指図・絵図目録の増補、および史料所蔵機関における指図・絵図の実見と史料収集につとめた。とりわけマイクロ撮影の紙焼き史料の収集において大きな成果があり、それは以下の通りである。 国立公文書館……押小路家文書にみえる指図・絵図の収集。全93冊にわたる一通りの通覧が済み、指図・絵図の掲載箇所および全体の分量を確認することができた。そのうえで、ほぼ全てをマイクロ撮影の紙焼きの形で入手した。残りは次年度に調達予定である。 東京大学史料編纂所……徳大寺家旧蔵文書に含まれる、江戸時代の宮廷儀礼に関する史料を実見し、指図を確認した。これらは未紹介史料である。マイクロ撮影の紙焼きの形で入手した。 宮内庁書陵部……即位儀礼の役割分担を列記した『天祚礼祀職掌録』の最良伝本を閲覧し、手元の史料を校閲した。即位儀礼に関する指図と照合するための史料である。 東京国立博物館……資料館所蔵の『旧儀式画帖』の全てを、マイクロ撮影の紙焼きの形で入手した。これは江戸末期の制作ながら、宮廷儀式を式次第と絵画とで示した貴重な史料として、一部の研究者の間で走られていたが、その全貌は学界に未紹介である。現在、目録を作成しているところである。 指図・絵図を入手することは、思った以上に撮影と入手の手続きに困難をともなうことを、昨年度から痛感していたが、それでも上記のような未紹介の史料群を入手することができ、目録作成と図の読解とによる研究成果には、大いに期待ができる。また、これまで平安時代から中世を主に視野としてきたが、近世においても指図・絵図が、日記や文書の記事と密接に連関して一つの儀式の全貌を示している事例を見つけることができた。指図・絵図の史料学的研究の成果は、宮廷儀礼の前近代史を通じて、問題を提起することになるであろう。
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