本年度は、愛媛県松山市、京都府京都市、沖縄県那覇市、岩手県盛岡市などで日清・日露戦争以降の「郷土の軍神」たちの評伝、銅像、唱歌・琵琶歌、郷土史中の記述に関する現地調査を行い、彼らがいかなる政治的・社会的背景により「軍神」と称されるに至ったのか、彼らが大正後期〜昭和初年の郷土史教育などのなかで郷土の偉人として語り継がれたことは、人々の戦争観にいかなる影響を与えたのかを分析した。とくに盛岡市では、日露戦争時に大陸でロシア軍により処刑された軍事探偵・横川省三に関する文献資料や、銅像の跡(台座のみ現存)、戦後個人により建造された木造といった史跡に関する情報を一定量収集することができた。横川と同様、日露戦争で諜報活動に従事して処刑された探偵は複数存在するので、彼らがそれぞれの郷里でいかに顕彰されていったのか、その比較が新しい課題として浮上した。また、各地方の現地調査とは別に、千葉県出身のある日清戦争従軍兵士の日記を調査の過程で発見したため、彼の故郷の村に建てられた記念碑なども調査して当時の兵士の「郷土」観、そして地域における「兵士」観の実相を明らかにした。この成果は平成19年度内に活字化のうえ公刊する予定である。このほか、昭和戦中期の「軍神」-具体的にいうと第二次上海事変時の爆弾三勇士など-に関する各種文献を収集し、分析を行った。以上の調査の過程で閲覧した各種の日本陸海軍部隊史、個人の戦争体験記から得られた知見を生かして、著書『戦場に舞ったビラ 伝単で読み直す太平洋戦争』(講談社選書メチエ、平成19年3月)を刊行することができた。
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