本年度は、(1)出入筋にかかわる幕府裁許状の収集、(2)吟味筋の裁判記録である『御仕置例類集』のデータベースの作成、以上当初の実施計画にもとづき、以下のような調査・研究を行った。 (1)科研費の旅費を活用し、近世前期から中期の幕府裁許状収集の補足調査を、三重県立図書館・神宮文庫で行った。 昨年度までの史料採集の結果、今年度は2本の論文発表という形で、研究成果の共有化をはかった。まず、近世前期における幕府裁許の決定過程を、論所に派遣される検使の動向を明らかにした(「近世の論所裁許と検使検分」)。また、寛永期に設置されたとする評定所について、新出史料からその機能などの一端を明らかにした(「成立期の評定所」)。 近畿地方・中部地方など多くの幕府裁許状を収拾したが、残された史料の多さ故、その地域の特質について明確な成果をあげることはできなかった。しかし、当初の目的である、十七世紀の幕府法支配の実態と、十八世紀以降におけるその変化を、論文という形で明確な成果を出すことができた。 (2)昨年度までに、科研費の人件費を活用し、吟味筋関係の裁判記録である『御仕置例類集』のデータベースを作成し、7062件全ての入力を終了した。入力項目は部・類・年代・件名・伺提出者などである。この成果を広く共有すべく、単に論文や研究発表というある種限定的な公開でなく、データベースの公開に向けて準備中である 以上、当初の計画通りに、15府県の図書館・文書館などでの史料収拾の結果、1000件を超える出入筋の裁許状を収拾し、それをふまえて近世前期の幕府評定所における審理の実態を明らかにした。
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