本研究課題では、近世中後期から近世近代移行期における北海道・東北・北陸(以下、北日本と呼ぶ)の各地域で行われた芸能興行について基礎的なデータを集積し、芸能者・芸能集団の移動とそれぞれの地域における興行主の動向や存在形態及び興行主間のネットワークに着目することで、当該期の北日本に展開した芸能興行をめぐる政治的・社会的・文化的な状況を明らかにすることを目的としている。本年度は、特に青森県に重点を置いて調査を行った。具体的な成果は以下の通りである。 1、弘前藩庁の日記である『弘前藩御国日記』(弘前市立図書館所蔵)の記載から、弘前藩領内における芸能興行に関わる内容を抽出して、データベース化を実施した。同日記の調査から、弘前藩に関しては、城下町弘前及び藩領内で行われた芝居興行・相撲興行・曲馬興行について、天和年間から慶応年間までという長いスパンにおいて、その具体的な状況を明らかにし得るという見通しを得た。特に、城下町弘前における興行主の動向や、弘前藩領内を往来した、松前、秋田、仙台、江戸などに出自をもつ旅役者の存在形態を具体的に示す史料が含まれていたことは、本研究課題を進める上で重要である。なお、同日記計3300冊余のうち、本年度は、寛政期から天保期を中心とする487冊について調査を実施した。 2、福島県立博物館にて、福島県内に所在する芸能興行関係史料について所在調査を実施した。 3、北海道立文書館所蔵の開拓使文書に含まれる、近代初期の松前や江差、函館などにおける芸能興行関係史料を対象に、近代初期の北海道における芸能興行、特にそれを担った芸能者・芸能集団の具体的な事例について、データベース化を進めた。
|