本年度は、グルジアやアメリカでの研究成果発表と資料収集を行った。いずれもイランとグルジアやロシアを行き来した人の移動に関する報告であり、海外の研究者との意見交換も進んだ。また、コーカサスに関する国際会議や研究集会を重ねる中で、特にグルジア写本センターのクダヴァ所長を日本に招いて、研究の成果共有や還元作業を行うことができた。 こうした一連の研究成果は、複数の論文や単著の発表に結びついた。たとえば、この研究で掲げている辺境史の再構築と帝国政策の関係については、前年度に引き続き、サファヴィー朝宮廷で活躍したグルジア系官僚パルサダン・ゴルギジャニゼについての論考を発表した。さらに、サファヴィー朝に仕えたグルジア出身の有力四家系の活動に関する研究を、現地トビリシの有力出版社アルタヌジから上梓した。これは、日本人研究者による初めてのグルジア語での出版である。さらに、こうした周辺世界との人の移動について考察を深める中で、19世紀の有力グルジア人貴族・知識人のアレクサンドレ・オルベリアニの自意識について論考をあらわした。その中ではイラン政権からロシア支配に変化する中で、現地の知識人がいかに過去と向かい合ったのか検討した。 この他、強制的な人の移動の文脈では、イスラーム世界における黒人奴隷に関する著作の邦訳作業に加わり、出版に貢献することもできた。このように、本研究の最終年度である3年目には、新たな研究の方向性も見出す幅広い成果を得ることができた。今後は人の移動とアイデンティティの問題についてさらに考察を深めることで、新たな研究視座の構築に努める所存である。
|