司法制度に着目して19世紀オスマン帝国の中央-辺境関係の解明を図る本研究の最終年度にあたる平成19年度には、以下の研究を行った。 1.前年度のリビアの文書館・研究所の調査をもとに、これらの研究機関の所蔵状況などを紹介する学界動向を発表した。この論文ではリビア国立文書館にオスマン帝国時代のシャリーア法廷文書のみならず、19世紀末以降の制定法裁判所の資料も豊富に存在することを指摘した。 2.これまで収集した資料をもとに、19世紀前半のオスマン帝国の司法改革とその地方社会への適用・波及に関するトルコ語の論文を発表した。この論文では従来知られていなかった1840年の裁判官訓令を利用し、その現代トルコ語転写を掲載した。 3.平成19年8月25日〜9月3日、9月10日〜17日の期間にトルコ、イスタンブルに出張し、前年度に引き続きイスタンブル・ムフティー局附属文書館、総理府オスマン文書館、イスラーム研究センター図書館などで調査を行った。とくにオスマン帝国末期の辺境域の司法制度に関する資料(帳簿類約十冊、文書数十点)を閲覧し複写及びデジタル画像を入手した。今回の調査では、リビアにおける「ハナフィー化」政策を示す重要な文書を入手することができた。 4.平成19年12月及び平成20年1月にそれぞれ「アジア・ロシア」とコーカサスをテーマとした国際シンポジウムに司会として参加し、帝政ロシア及びその支配下の中央アジア・コーカサスに関する新しい知見を得るとともに、これら地域とオスマン帝国との比較に関して内外の研究者と意見を交換した。 5.これまで行ってきた研究から、オスマン帝国の辺境地域、とくにリビアとイエメンにおける司法制度改革のプロセス及び現地社会に与えた影響を解明し、シャリーア法廷の重視や、ハナフィー派法学と現地の慣行との相克などの特徴を明らかにすることができた。また、帝国権力によるシャリーア施行の奨励・監督、「現地人法廷」の設置、「ハナフィー」化といった問題において、イギリス、フランス、とくにロシアの対ムスリム政策や植民地法制一般と一定の共通性が見いだされ、帝国間の比較の方向性を探ることができた。これらの成果は論文として発表する予定である。
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