研究代表者は、上記研究課題について、二点について進めることが出来た。 第一に、研究代表者は、15世紀後半にロシアにおいて問題になっていた破戒修道士に対する、当時の協会の活動家ヨシフ・ヴォロツキーの対応を考察し、そこにおいて、後に、大公権力の正当化のために使用されることになる、教対者を宗教的異端者として告発する理論の萌芽を見出した。この理論は、それまでと異なり、神学的な系譜関係の証明を必要としないものであった。従ってこの理論は、比較的自由に敵対者に適用可能であり、排除の論理を支えた。後にこれを国家権力が利用することになる。その反面、ロシアの国家権力は、テオクラシー的な自己の権力の正当化を行うことになる。 その際、研究代表者はロシアに滞在し、現地研究者と交流し、15-16世紀の国家権力の正統性について、彼らから有益なアドバイスを受けたことを記しておく。 第二に、16世紀ロシア国家の法的基盤の解明のために、イヴァン雷帝の法典の日本語訳を作成し、これに訳注を付けた。法典訳はもちろん国内で初めての試みである。但し更に強調されるべきは訳注である。これは、単なる条文の訳ではない。訳注では、特に15世紀末のイヴァン三世時代の法典(1497年法典)との比較検討が行われた。それにより、国家権力の正統性を支える法的担保について、またそれを支える人的装置について、まだ不十分ながら研究を進めることが出来た。この研究は次年度にも継続される。
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