今年度は、本研究の2年目にあたる。前年度の研究においては、17世紀はじめには貴金属取引には、多数の少額送金者が関与していたのに対して、世紀半ばには少数の多額送金者の重要性が増加することが、サンプルデータから観察された。今年度はこの観察結果の妥当性を確認するために、より多くのデータ量を分析することを目指し、前年度に収集した資料のデータベースへの入力をすすめた。その結果は前年度の観察とほぼ同様であった。さらに、より詳細な分析をおこなった結果、世紀半ばの多額送金者は、世紀前半の多額送金者と名字が類似するケースが多かった。さらに、民間送金者のスペイン側の受け取り相手も送金元の人物と同姓者が4分の1近くを占めた。このことから、送金者の多くがなんらかの血縁性に基づいておこなわれるケースがあり、このような血縁による取引が世紀半ばには増加するのではないか、という仮説を立てた。これを検証するためには、婚姻や渡航についてのより詳細な分析が必要である。血縁関係に関するデータは前年度に収集したデータに散見されたが、これらのデータは仮説を確認するものではなかった。そこで、利用するデータの範囲を広げることに決め、まず、スペイン・セビリアのインディアス総合文書館収蔵の渡航者リスト(少なくとも父親の名前と出身地、場合によっては詳細な親類関係が記載されており、インターネットでの閲覧が可能)を検討した。これと平行して、メキシコの国立文書館で婚姻関係のデータ(婚姻訴訟、遺産訴訟など)を閲覧した。時間的な制約で、メキシコでの調査は、目録で特に同じ名前が見つかった資料に限定されたため、14名にとどまった。双方の資料を研究協力者の助力を得て検討した結果、8名の人物については、送金元と送金先の血縁性が確認されたが、残りは手元にある資料からは血縁性がみとめられず、仮説は部分的に有効であることが確認されたにとどまった。
|