研究概要 |
本年度は2007年4月に米国とカナダに調査旅行を実施した。ワシントンDC近郊の米国立公文書館や米科学アカデミー文書館で資料調査を行った。また加モントリオールで開催された米医学史学会に出席した。さらにABCC関係者へのインタビューを行った。 当研究の成果として,2008年2月には主に米国立公文書館,議会図書館,米陸軍病理学研究所等で収集した史料に基づいて,科研費研究成果公開促進費の助成をうけ『封印されたヒロシマ・ナガサキー米核実験と民間防衛計画』(凱風社)を刊行した。米エネルギー省は1990年代になってやっと米核開発に関する公文書の公開をはじめたため,本刊行物では利用できる最新の史料を使用した。またその中でもなお機密扱いされている文書に対して情報公開請求を行い,その結果公開された史料を,本刊行物では分析し,核時代史の中での意味を検証した。それらの史料の代表的なものとしては米原子力委員会生物医学部の史料で,放射線の人体への影響に関する情報がその機関に集積されていた。これらの史料を分析することによって初めて,米政府が米核開発のためにいかなる人体実験を行っていたのか,その中で広島・長崎で収集された被爆資料がどのような形で米核開発および民間防衛計画の中に組み込まれていったのかを実証的に検証することができた。 さらに2008年3月にはアメリカ学会の学会誌『アメリカ研究』に論文「原爆投下1分後-消された残留放射線の影響」を発表した。アメリカ政府は公式声明の中で原爆投下後1分後に発生する残留放射線の影響を否定する公式声明を出し続けてきたが,これらの声明が包括的な科学的調査に基づいたものでないことを,テキサス医療センター図書館で入手した資料によって検証した。
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