本年度は、昨年度に行った近年の関連文献を中心とする研究動向のサーヴェイをふまえ、一次資料の渉猟と分析を中心に行った。研究動向のサーヴェイは、報告者が勤務する共立女子大学国際文化学部の紀要(『共立国際文化』)において、「19世紀ドイツにおける『国民国家』と『地域』-近年の欧米の研究から」として公表した。ここで主に取り上げたのは、Celia ApplegateのA Nation of Provincials(1990)、Alon ConfinoのThe Nationasa Local Metaphor(1998)、Abigail GreenのFatherlands(2001)、Siegfried WeichleinのNationund Region(2004)の4冊である。なおこの内容については、小規模な研究会において口頭報告を行っており、また2007年9月のドイツ現代史学会(東海大学)においても、国境地域に焦点をしぼりつつ、論点を提示する予定である。 一次資料については、ドイツ第2帝政期に刊行された、民衆学校向けの『郷土誌(史)』を中心に収集した。とくに重点を置いたのは、Hannoverであるが、それはこの地方が1866年以前は独立した領邦であったが、同年の普墺戦争での敗北後、プロイセンに吸収・合併されたという点に着目してのことであり、また世紀転換期に郷土教育推進における重要な拠点となったという事実によるものである。もう1つは、都市、とくに人口10万人以上を擁する(当時の定義でいう)大都市における『郷土(誌)史』である(ミュンヒェン、シュツットガルト、フランクフルト)。これまで郷土理念が、小都市や農村といった近代化から取り残された地域の理想化として論じられることが多かっただけに、ドイツにおける近代化の中核にあった大都市における郷土教育は、それを批判的に検証するうえできわめて重要であるといえよう。 以上の領邦・地方、そして都市の両面から収集した資料の整理・分析を進めているところである。
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