研究概要 |
本年度は、第二次世界大戦期の強制召集兵(マルグレ・ヌ)の問題について、U.リドヴェクによるマルグレ・ヌ研究Les Malgre-Nous, Histoire de l'incorporation de force des Alsaciens-Mosellans dans l'armee allemande等を参考にしつつ、1990年代半ばから数多く刊行されている手記、回想録、日記、書簡集等の整理および分析を行った。それらの資料は、大きく分けて「帰還できた兵土」のもの(本人による証言や出版)と、「帰還できなかった兵土」のもの(近親者や研究者による書簡や日記類の公開、出版)に分けられる。それらの中から「マルグレ・ヌ」としてある意味典型的な体験をした人物として、帰還者であるF.フリドの証言(FURLA, Daniel, Des Alsaciens pendant la Seconde Guerre Mondiale, Lyon,2003.に所収)と、行方不明者であるF.リュドヴィクの書簡(LUDWIG, Frederic, Hugues HAEMMERLE, ed, Lettres d'un "Malgre-Nous" a ses parents, Colmar,2003.)を中心に、マルグレ・ヌたちの置かれた立場、心情、体験を抽出した。そこからは、葛藤を抱きつつも、何よりも「生き延びるため」に「ドイツ兵土」として戦場での役割を果たすアルザス兵の有り様が見えてきた。また、「帰還者」については、彼らの戦時中の体験は、「フランス人」としては容認せざるもの、また「対独協力者(コラボラトゥール)」に類するものとして、戦後非難の対象となり、それゆえに「沈黙」を強いられ、それが現在にいたるまでのトラウマと化していることが明らかとなった。その端的なケースとしてはボルドー裁判の「記憶」が上げられる。このボルドー裁判については、ヴォノーの研究(VONAU.Jean-Laurent, Le Proces de Bordeux, Strasbourg, 2003.)を中心に、オラドゥール事件とボルドー裁判に関する他の研究も参照としながら、その「記憶」のされ方について考察を行った。それらの研究を踏まえた博土論文によって、平成19年3月に博士号を取得。平成19年9月に『アルザスと国民国家』として出版予定である。
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