第一次世界大戦期に創設されたイギリス初の女性警察組織WPSの活動を通して、ジェンダーとセクシュアリティおよびフェミニズムとファシズムの関係について考察をおこなった。まずは、WPSおよびそめ指導者M.アレンの「変貌」の契機となっだ制服裁判(1921年)に関するあらたな史料(判事を務めたC.E.チャップマン、およびアレンと親交のあった小説家R.ホールのメモワール・書簡類)を入手し、チャップマンが、女性同士のホモセクシュアル行為を禁じる法律の制定に向けて動いていた事実や、ホールの.『孤独の泉』が、制服裁判ののちにレズビアン小説としてイギリス初の発禁処分を受けた事実の分析を通して、制服裁判がもった「セクシュアルな側面」に迫った。裁判は、ヴォランタリの女性組織を排除することで、戦前のジェンダー規範を再構築しようとするものであっただけでなく、女性のセクシュアリテイに関する議論が「解禁」される契機にもなった。争点が、最終的にアレン個人の性的嗜好へと落とされていく渦程のなかに、この時期のセクシュアリティとジェンダーの密接な関係が浮かび上がってくる。以上の成果をもとに、「第一次世界天戦とジェンダー-女性警察研究の射程-」、および「『制服の時代』-第一次世界大戦期イギリスにおけるジェンダーとセクシュアリティー」というタイトルで論文を執筆した(現在、投稿準備中)。 さらに、制服裁判を、戦前には存在しなかった「制服の権威」が確率していく過程ととらえることで、フェニミスト・アレンが「権威獲得の手段」としてファシズム化していく契機をさぐった。とくに、裁判後も制服に固執しつづけたアレンの言動や彼女に対するフェニミストのまなざしに注目することで、制服が「戦中」だけでなく「戦後」にもった意味を分析した。
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