本年度は、研究計画にしたがって、武蔵国内における律令成立期前後の集落跡から「土師器焼成遺構」及び「製作残滓」の集成を行った。パーソナルコンピュータを使用して、基礎的属性等の整理を実施した。また、刊行済みの発掘調査報告書ベースでは、「製作残滓」の判別が困難であった。また、「製作残滓」と見紛う類似する産状の資料がきわめて多いことから、できるだけの資料実見を敢行することにした。さらに、当初計画になかったものの、実験の際の写真記録をもとに、画像データーベースとして発展させることにした。実見の際、「製作残滓」の状態を高画素数のデジタルカメラで撮影し、縮尺揃え及びカラーマネジメント等の補正作業を実施した。これにより、これまでほとんどの研究者が目にすることのなかった「製作残滓」を写真ベースであるが、広く公開できることになる。 また、「製作残滓」が作出される過程を復原的に提示するため、複製土器の製作実験を企画していた。しかしながら、「落合式土器」の製作技法に関する研究が詰め切れていないこともあり、厳密な意味で、「複製土器」・「複製残滓」を製作できない状態にあった。そのため、まずは、当該土器の製作技法を見つめ直すことを目的として、実物資料から成形・調整の痕跡を読み取ることにした。資料を借り受けて、軟X線透過像等による分析・解析を行うことも考えたが、従来的な肉眼観察及び実体顕微鏡検鏡下での低倍率観察を実施した。この方法であれば、短期間できわめて多数の観察を処理できると考えたからである。実際、当該土器の成形・調整の痕跡を写真撮影し、これもあわせて、画像データーベースに組み込み、「落合式土器」の製作技法を体系的に整理するところまで漕ぎ着けることができた。 なお、研究協力を仰いだ「基盤研究(C)黒斑から見た縄文・弥生土器・土師器の野焼き方法(北陸学院短期大学・小林正史教授)における議論を受けて、製作技法の復原の一環として、黒斑観察にもとづく、「落合式土器」の焼成技術も検討に加えることとした。
|