研究概要 |
本年度の研究実施計画に従い,(1)森林環境の把握の基礎となる日本側の地図作成の検討,および(2)2年次以降の検討で必要となる史料の収集・閲覧を進めた。まず(1)に関しては,(1)1910年に完成し,その後版を重ねた「朝鮮林野分布図」の書誌学的調査として,従来未確認であった1910年版(北海道大学所蔵)を調査し,1912年版および1915年版との比較分析を進め,非公開であった1910年版と公開された1912年版が微細なデザインの相違を除き,同一の内容であることを確認した。その成果の一部は,既刊の拙稿「植民地における森林資源の地図化」(長谷川孝治編『地図の思想』朝倉書店)が2006年に増刷されるに際しての加筆修正に,反映される予定である。また,(2)併合後完成した5万分1地形図と「朝鮮林野分布図」の比較および両者の精度の検証を進めた。その際,精度を対照させる必要から,『1万分1朝鮮地形図集成』(覆刻)を購入した。さらに(3)これらの地図作成と朝鮮総督府の林野政策,特に林籍調査・林野調査および火田(焼畑)との連関を検討し,「朝鮮林野分布図」が朝鮮総督府の林野政策の出発点にあったこと,またそこには朝鮮を環境破壊国として位置づけ,日本がもたらした植民地的近代を正当化する表象が埋め込まれていることを見いだした。またその際,林学・地理学・農学といった諸学が複雑に関わっていたことも,見いだされた。その成果の一部については,Geographical Review of Japan(『地理学評論』)に英文で投稿中であり,そのために英文校閲に費用を割いた。次に,(2)に関しては,国内有数の朝鮮関係の蔵書・史料を保管する学習院大学東洋文化研究所,および主要な旧帝国大学図書館として京都大学・北海道大学での調査を進めたほか,翻刻された文献の購入を進めた。ただし当初予定していた韓国国立中央図書館での調査は,(1)の作業に時間と労力を割いたため,遺憾ながら行い得なかった。
|