研究概要 |
2年次に当たる平成18年度は,地図に焦点を当てた1年次に続き,森林環境をめぐる地図以外の言説や表象に焦点を絞った。その際,(1)前年度からの史料収集・閲覧作業を継続するとともに,(2)(1)朝鮮総督府や他の視察者が作成した調査・報告の分析,(2)地理学者・経済学者・歴史学者の行った調査・研究の分析,(3)植民者向けに発刊された移民案内や地理ガイドの分析,(4)民間の渡航者や文筆家の手記や紀行文の分析を進めた。その際,公的な図書館等においても所蔵されていない雑多な資料の収集が鍵となったため,当初予定していた旅費を伴う資料調査を取りやめ,書籍・古書の購入を積極的に行った。 その結果,日本統治期の朝鮮半島の森林環境が,当時の総督府の官僚・技術者や嘱託研究者のみならず,一般の渡航者のためのガイドブックや渡航者盲身のイメージのなかで「禿山」と表現され,それが植民地の「後進性」と同一視されていた状況が確認された。このような状況は,植民地支配の実現に先駆けて進められていた森林調査や植民地の「近代化」を当然視する林学者らによって,強調・流布された植生イメージによって作られた可能性が高いとみられる。このことは,植民地支配にあたって植民地の「環境」理解が大きな役割を果たしていたこと,それが植民地化する側の目線によって構築されたものであったことを示している。 なお研究計画当初には視野に入っていなかったことであるが,森林のなかに残された山城などの史蹟が,植民地期における森林調査のなかで,調査対象に組み込まれていた事実を見いだすことができた。とくにいわゆる文禄・慶長の役における日本側の山城は,植民地統治の先駆けとして強調されることが多く,その意味で森林環境の位置づけは,歴史認識の問題とも関連する重要性を帯びているといえる。この点は,国際歴史地理学会(ICHG)において報告することができた。 なお前年度の成果として,2本の雑誌論文を公表することができた。
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