本研究は、エチオピアの焼畑農耕社会を対象に、数世代にわたる人びとのライフヒストリーデータを収集して約70年間の人口動態を正確に復元し、それを資源利用・社会経済変化との関連において分析することによって、これまで明らかにされてこなかった小規模生業社会の人口動態と人口転換のメカニズムを明らかにしようとするものである。 前年度までの研究において、既存データをデータベース化して整理するとともに、現地調査によってデータの信頼性のテストと必要なデータの補足をおこなった。これにもとづいて最終年度である本年度は、前年度の現地調査によって得られたデータの整理出生・死亡に関する世代ごとの分析、成果のとりまとめ、を順におこなった。 データ分析の結果、(1)定住化する1980年代以前のマジャンギル社会が合計特殊出生率4に満たない少子社会であったこと、(2)定住化の影響を受けた世代の女性とそれ以前の世代の女性を比較した場合、出生率と初産年齢ともに有意差が見られ、定住化によって出生率の顕著な上昇が確認されたこと、が明らかになった。狩猟採集社会や焼畑農耕社会が低出生率社会であることの理由については従来議論が見られ、ひとつの主張として「非定住社会は低出生率社会である」というものがある。本研究は詳細なデータ分析によってこの主張を支持する結果を提示したものとして、人口史研究に大きく貢献しうる成果を得ることができた。この研究成果は現段階において、第16回国際エチオピア学会、第44回日本アフリカ学会などの学会発表の他、論文・著書においてその一部を既に公表した。
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