平成18年度は、資料調査に関しては、農業・農村景観についての資料蒐集、現地調査に関しては石川県輪島市白米地区の棚田をめぐる農業政策、文化財行政、観光化等について実態調査を行った。資料調査に関しては、国内の農業・農村景観についてのビジュアル・データ(写真集等)を可能な限り収集し、農業・農村景観への関心のあり方、表象のされ方などの推移を検証した。現地調査に関しては、農業政策、文化財業績、観光行政等の担当者から実態についてインタビュー調査を行うとともに、観光イベントや保存事業といった現場に参画し、現場の実状に関する情報を収集した。その成果の一端は「コスメティック・アグリカルチュラリズム-石川県輪島市『白米の千枚田』の場合-」(岩本通弥編『ふるさと資源化と民俗学』吉川弘文館2007年)として発表した。この論文では、世界遺産条約、WTOなどの影響を受けて「棚田」に対する関心がかつてない高まりを見せている一方、実際に棚田の存在する地域社会は、過疎化、高齢化に苦しむケースが多く、農業支援、観光開発、文化財保護などの外部からのサポートも必ずしも持続的な営農環境の実現には至っていないことを指摘し、表層的な農業賛美からは距離を置き、地域社会の抱える個別的で多様な問題に注目する必要を論じている。
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