本研究の主たる目的は、フィールドワークに関する文化人類学の蓄積を活用しながら、今日の我が国の終末期ケアと看取りをめぐる社会的実態を記述、分析することにある。 平成18年度には、前年から実施している「一般の病院・診療所におけるフィールドワーク」と「遺族に対する聞き取り調査」の二つの調査活動を継続し、そこから得られた知見を考察した。前者に関しては、いわき市内の複数の総合病院や特別養護老人ホームを訪問し、終末期ケアに関するカンファランスの見学や、スタッフの臨死者への態度をめぐる言説の収拾に努めた。後者に関しては、新たに5ケース、8人の遺族に対し、13.5時間のインタビューを行った(前年度との延べ実績では、それぞれ21ケース、31人、49.5時間)。インタビューで得た音声記録に関しては、逐語形式で文書データ化する作業を進めており、8割程度が完成している。 以上の調査活動から得た質的データについては、グラウンデッドセオリーの手法に準拠しながら、カテゴリー化と関連付けの作業を進めている。文書データは膨大で、分析作業は次年度以降も継続する予定であるが、現時点で1)医療者への感謝・信頼、2)医療者との出会い、3)告知、4)看病・介護、5)健康食品・代替療法、6)仕事・生活、7)死生観・科学を超えた物語り、8)遠慮・言えなかったこと、という8つの大きなカテゴリーを立てる段階に到達している。研究成果の一部は、いわきターミナルケア研究会(2006年5月8日)、いわき市立総合磐城共立病院研究会(2006年9月19日)、生と死を考える福島の会定例会(2006年9月30日)で中間報告として口頭発表した。 最終年度に当たる平成19年度は、調査活動の拡大は極力控え、既得のデータの精査・統合に重点を置いて研究を進める。この作業を通じ、新しい形態の終末期ケアが産業化社会の看取りに与えた影響とその限界を明らかにすると共に、文化人類学の立場からこの現象を語るためのモデルを提起することを目指す。
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