本研究は、文化人類学的手法によるアフリカ現地調査に基づき、この地域のろう教育の形成史とその影響の全容を世界で初めて明らかにするとともに、ろう者のための教育開発に関する新たな提言を行うことを目的としている。本年度は、西アフリカのガーナ共和国とアメリカ合衆国における現地調査を行い、そのデータ整理と関連文献収集を行った。 ガーナは、西アフリカで初めてろう教育が開始された国であり、ろう者たち自身が運営したろう教育事業のモデルケースとなった国でもある。このアフリカろう教育のルーツであるガーナを訪問し、同国におけるろう者団体とろう教育の現状、ろう教育形成史、ろう者のためのキリスト教ミッション(CMD)に関わったろう者たちへの聞き取り、文献・写真収集などを行った。とくにオーラル・ヒストリーの手法を用いて、文字として残されていないろう者の証言を記録し、ろう教育の歴史を再構成するための重要な手がかり得ることができた。これらの結果を分析することで、アフリカにおける手話言語の伝播ルートと時期が特定され、この地域のろう者の言語文化形成史が明らかになった。 また、アメリカ合衆国での短期調査を行った。アフリカでろう教育事業を展開した「ろう者のためのキリスト教ミッション(CMD)」(本部:ミシガン州)を訪問し、その設立50周年記念行事を取材するとともに、このミッションのスタッフや、その教育事業に関わってきたガーナやベナンなどのアフリカ諸国出身の高齢ろう者とのインタビューを行った。 これら現地調査で得られたインタビューの記録作成や、手話ビデオ映像の分析、文献研究に基づいて論文の執筆を進め、成果の一部はすでに公開されている。成果の主要部分はすでに英文でまとめられており、2005年のアメリカ人類学会大会で発表された。次年度には英文雑誌への投稿を予定している。
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