本研究は、中国雲南省南部における少数民族の市場経済への適応の過程を、個々の世帯経済とその多様性から把握し、さらに衛星データの分析から明らかにできる土地利用の変遷を、生業や経済的・政治的状況の変化、周辺民族との社会関係、人口変動との関連から、実態にそくしてとらえなおすことを目的としている。 今年度は、国内および中国において、雲南および周辺の少数民族居住地域における生業と世帯経済にかんする資料の収集・分析をおこなった。さらにあわせて、衛星データおよび地図等の資料から土地利用区分の把握をつとめた。 雲南省元陽県では、高度1300メートルから2000メートル付近にハニ族およびイ族の村が位置している。彼らはおもにトウモロコシ、ダイズ、カボチャ、イネ等が栽培している。トウモロコシは主にブタの飼料として、その他は主に人の食用として自給的に消費されていた。イネについては、上記地域では在来種が多く栽培されてきたが、近年は政府の指導により一部ハイブリッド種が導入されている。ただしハイブリッド種は種籾の購入が必要であること、および生育条件となる温度・高度が在来種とは異なるために、農業とは別に給与等の現金収入がある世帯でハイブリッド種が生育可能な土地を借用等できる少数の世帯が主に導入していた。 こうした定期的な現金収入源をもつ世帯とそうでない世帯では、毎日の食事に占める自給作物や採集植物の割合が大きく異なり、さらに市場(ローカルマーケット)で各世帯が売買する作物・物品の品目に差異があることがわかった。また、定期的ではないが、他地域への出稼ぎ等によって収入を得ていた世帯も複数みられた。ただし、こうした出稼ぎの収入は村での日々の世帯経済に寄与することはそれほど多くなく、出稼ぎ先で収入のほとんどが消費されたり、一部は新たな家の建設・建て直し、婚資等の出費にあてられていた。 次年度は、こうした世帯経済の状況を各世帯の栽培作物・採集植物の品目と利用頻度、食事、出稼ぎ・市場での売買を含めた現金収入の実態等と関連から分析しなおし、この地域における少数民族の市場経済への適応の過程と方法をまとめたい。
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