本研究は、徳島県阿南市伊島を根拠地とした漁民が、器械潜水技術を用いて出稼ぎ・移住をすることにより展開された漁民移動と、それにともなった文化伝播の一端を解明しようとするものである。 本年度は、主として(1)現地調査、(2)文献調査によるアプローチを試みた。(1)では、岡山県倉敷市大畠、香川県高松市男木島、女木島、兵庫県神戸市、大阪府岬町深日において現地調査を行った。器械潜水漁を行う漁民から港湾工事等へ転換する過程と、出稼ぎをした伊島漁民の親族関係に係るネットワークに重点をおいて調査を行った。(2)では、昨年度に引き続き戦前期の朝鮮半島出漁関連資料とともに、戦後瀬戸内海出漁時の記録も含めて収集した。 引き続き資料収集と検討を行っていくが、現時点で以下のようにまとめることができた。 1)伊島漁民は潜水夫として出漁地に漁業技術をもたらしたが、出漁地で器械潜水の技術が受容されると必要とされなくなり、潜水夫としての出漁先を失った。 2)出漁者は親族中心の同郷者集団に継承されることにより、連続した出漁地との関係を一定期間維持し、工事潜水に至っても同郷者集団を母体とした組合を組織した。 3)その年の出漁期間を終えると、多くの出漁漁民が伊島へ帰郷し、春の祭りに加わり、秋祭りを終えた後出漁した。こうした出漁サイクルにともなって伊島の年中行事が再構成され、大きな影響を受けたものと考えられる。
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