研究概要 |
今年度は、研究計画通り,(1)来年度以降の研究に必要な資料の収集を中心に,(2)予備的な成果の報告を行なった。 (1)最も重要な資料として,エジプト破毀院(最高裁判所)民事・刑事判例時報(1931年-1987年)を入手した。国内に所蔵のない,大変に重要な資料である。 (2) 論文: 堀井聡江「エジプト民法典における先買権の立法目的」(『東洋史研究』第65巻第1号,2006年6月30日刊行予定,掲載決定証明書添付) 現行エジプト民法典(1948年発布)による,イスラーム法からの先買権の継受が,法のイスラーム化の一例というより,一定の政策的な目的に根ざすものであったという私見について,主として19世紀以来の同制度の立法史と規定の変遷,古典イスラーム法との比較に基づいて論証を試みた。 口頭発表: 1.アジア経済研究所「イランの不動産取引をめぐる法と慣行」第三回研究会報告「イスラーム法における慣行の位置づけと立法への影響」(2005年9月28日,於上智大学) 近代法によるイスラーム法継受の例のなかには,しばしば学説によって容認されるようになった(ゆえに本来はイスラーム法と反する)慣行が含まれることと,そのメカニズムについて考察したうえで,上記先買権の継受はそれとは性質を異にすることを指摘した。 2.アジア・アフリカ言語文化研究所中東イスラーム研究教育プロジェクト非常勤研究員発表「エジプト民法における先買権-近代法とイスラーム法継受の問題点」(2006年3月24日,於同研究所) 上記論文の概要とともに,1920年代の判例分析を併せて,エジプト民法における先買権がイスラーム法におけるそれとは異なる,実質的に新たな制度に転化したことの論証を試みた。
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