私人間紛争の解決に際して、とくに本来的には私人対私人という枠組み内で解決されるべき場合でも、何らかのかたちで行政が作用を果たすべきであると行政サイドが考えており、また、私人サイドもそれを期待するという構図は、前年度までに明らかにすることができた。これは行政と市民との利害対立という図式においても同様で、その場合には一級上の行政機関が大きな作用を果たすのが通例である。これは、行政不服審査、来信来訪(陳情)といった制度にも裏打ちされており、具体的な裁判例から、これらが大きな作用を果たしていることをうかがい知ることができるケースがいくつか存在する。これは、国家原理のひとつである民主集中制の理論的帰結、すなわち上級が下級を領導するという原理から、下級行政機関と市民との対立は上級行政機関が適宜是正すべきであるという理念の具現化である。行政サイド(統治者サイド)は紛争の発展を適宜遮断し、社会治安の維持をはかるためにもかくあるべきであると考えていることがうかがえる。他方、市民サイドには上級は下級をよりよく指導するであろうとの期待がある。このように見れば、法の実現において行政が作用を発揮すべきであるとの考えの背景は、私人間紛争のケースと同様の構図であるといえる。なお、行政と市民との対立の解消に際して、共産党が作用を果たしていることをうかがわせるケースも存在するが、具体的な裁判例の分析をつうじて、その具体的な作用や背景を正面から明らかにすることは困難であった。公開された裁判例を素材とすることや、外国人(研究代表者)によるヒアリング調査そのものに内在する限界なのかも知れないが、この点は今後に残された課題としたい。
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