平成17年度は、中国の農地・草地(牧地)をめぐる権利の法的性質および権利関係の理論的解明と内蒙古地区を中心とする草地の利用形態の調査を中心に行った。まず、中国における集団所有権に関して、わが国における民法上の入会権に近似する疑念であるとの仮説を立て、そのことを検証すべく、とくに90年代以降の理論動向について整理した。その結果、権利の法的性質についてはほぼ仮説の通りであることが実証されたが、入会権と同様にその権利主体の不明瞭さゆえの問題が権利関係の複雑化と実務的混乱を招来しており、中国の学界においても、集団所有主体の不明瞭さを克服することが、農村問題解決のための喫緊の課題として積極的に議論され、ある程度の方向性を示そうという努力がなされていることが明らかになった。とくに、近時は、集団所有の実態からその主体性を確定しようとする作業が行われ、たとえば、社区(Gemeinschaft)説や総有説などが有力説になってきている。 つぎに、内蒙古でも比較的豊かな草原が残存している同自治区シリンゴル盟の草原利用の実態を調査した。その結果、陳巴児虎左旗では、牧民を季節ごとに国家所有地、集団所有地、請負経営地を移動させて利用させる方策を講じて、土地の集中的利用による過放牧を避け、これによって草地の保全を行っていることが判明した。このことは、1985年草原法(2003年改正)が禁じてきた遊牧が、規模や態様が異なるものの、事実上残存していたことを意味するものであり、大変興味深く、草原保護に対する貴重な示唆を得ることができた。
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