本年は司法制度と選挙制度の改革における「上から」と「下から」の動きを具体的かつ感覚的に把握することを目標に、それぞれの制度の改革の現状についての観察・分析を行った。 司法制度改革の現状分析についてはまず、司法実務に強い発言力を持ち司法制度改革について積極的に発言している中国政法大学司法学院院長の曲新久教授、そして死刑制度存廃問題について詳細な研究が見られる中国社会科学院の田禾教授など、有識者との対話を行った。これにより、司法制度改革の動向に強い影響力を持つ研究者が、今後の展開についてどのように予測しているか、そしてどちらに方向付けようとしているのか、という点を探ることができたと考える。 次に、一般に外国人の刑事法廷傍聴は許されないが、今回懇意にしている裁判官の好意で特別に数回にわたって傍聴を行うとともに、毎審理後に裁判長にインタビューする機会もいただき、裁判の現状と裁判官の法廷運営上の意識の所在を観察・分析することができた。特に、公判廷で裁判官が非常に積極的に発言する、という点には、実体的真実重視という職権主義の影響が感じられると同時に、当事者全体が一体化する運動型の裁判運営という姿も垣間見られたといえる。 選挙制度改革については、人民代表大会代表候補者とその支援者の活動に同行し、選挙制度の理論と実際に触れることができた。同候補者は「上から」の指名候補に対抗して「下から」推薦された候補であり、選挙活動および規制の観察・分析と選挙関係者へのインタビューにより、中国の選挙における「民主」の虚偽性を再確認するとともに、人々の党に対する複雑な感情と選挙への冷熱入り混じる思いを実感することができたと考えている。なお、同問題に関しては、06年12月11日に上海の華東政法学院で選挙制度における民主性の保障をテーマとした講演を行うとともに、下記の論文を提出している(6月出版)。
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