本年は、本課題の下で行ってきた研究を総括するとともに、これまで行った研究の基礎の上で新しい研究課題を打ちたて、さらにその指針を示すことを目標に研究を行った。 研究成果として、まず小稿「『矛盾』から読み解く中国」では、近時生じた中国の現在を象徴する事件・事情を題材に、憲法に規定される四つの基本原則と現代社会との「矛盾」を示し、中国の「今」の姿を描き出すとともに、将来の変化への展望を行った。本稿は、広く一般の読者を意識したカラー雑誌に掲載されたものであることから、中国社会の諸事情を法的側面からビジュアルに分かり易く紹介することを企図しており、今後中国法の研究が果たしていくべき役割の一つの可能性を示せたのではないかと考えている。 さらに、「物権法草案違憲論争の諸相」では、近時の最重要立法における議論の紹介を通じて、中国における規範秩序構造の現状と再構築の可能性について検討した。同論文では、政治宣言的な憲法の統治構造が社会の現実状態と乖離していることの危険性を示した上で、この危機を回避するキーは、統治の正当化契機という「名」のみの民主という現状を打破し、自己決定と自己統治という民主の「実」を確保することにある、との見解を示している。今後はこの視点から、統治構造に関する研究を深めていきたいと考える。 なお、上記研究に関して、本年度いくつかの学会に出席した。このうち、8月の東大での日中物権法シンポや12月の早大での法継受に関する国際シンポ等では通訳を担当している。また研究のため調査を行う中で、現地の裁判官や弁護士などの実務家及び学識軽験者等と活発な交流を行った。特に、華東政法学院の管建強副教授や上海交通大学の周偉教授等中国の「草の根民主」に関わる人物や、個人情報保護・情報公開立法等に参与する社会科学院の呂艶濱副研究員には、情報提供や調査協力など、様々な形で協力頂いている。
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