今年度は、昨年度に引き続き、「財政民主主義原則の再構成」のための問題意識の明確化と、具体的な素材の渉猟を平行して行なった。昨年度からの成果は、(1)本研究の全体像を試論的に提示した「財政活動の実体法的把握のための覚書(一)」国家学会雑誌119巻3・4号(2006年)および、(2)米国における関連する理論的展開を紹介した書評論文「租税制度と財政支出の統合的分析・序説」アメリカ法2005-2(2006年)として公刊したところである。 さらに、本年度中の研究実績として、本研究課題に関連して、二つの研究会報告を行なった。まず、(3)租税法研究会(東京大学・2006年7月)において、「財政におけるPrecommitmentとFlexibility-財政法の機能的分析の試み」と題する報告を行い、契約の経済学の発想を財政法学研究に応用するという研究課題の理論的側面の発展を試みた。これは、財政民主主義を支える法制度の課題として、状況に応じた柔軟な意志決定(Flexibility)を可能にする一方で、事後的に行動を変えることがしばしば事前の観点からは非効率な結果をもたらすことがありうるという観点から、むしろ財政民主主義が自己の決定を事前に拘束する(Precommitment)が必要となる側面もあり、このディレンマをどう調整すべきか、その際に有用な法制度的工夫は何か、という観点からの検討を行うものである。さらに、(4)公法研究会(北海道大学・2007年1月)において、「地方公共団体による補助金交付の公益性」と題する総合判例研究を行い、具体的な財政法学の素材として近時の住民訴訟判例の分析を行なった。今後、(3)・(4)の内容をさらに深めた上で公刊につなげるとともに、本研究課題で得た知見・着想(例えば財政民主主義における「基金」という仕組みの重要性の法学的検討など)を深めていくことを目指したい。
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