本研究のテーマは、現時点の科学的知見では環境への危険性につき不確かな現象("不確実性")に対し、どのような制御手法のミックスによれば首尾よく法的に制御できるかを明らかにすることにある。 これまでの研究では、現在の日本では過去のものあるいは機能性に限界ありとしてきわめて冷ややかな取扱いを受けている「規制的手法」がやはり制御手法の中軸を担わなければならないと言うことが明らかとなった。 もっとも、規制的手法に対しては「国家による監督の欠缺」が指摘され、それを梃子として「行政規制から自主規制へ」の転換が(とりわけ産業界から)主張される。そこで、平成17年度は、社会(私人)の「自主規制」が果たして国家による行政規制を代替するような機能性を有するかに焦点を当て研究を行った。同年度に公刊した論説「環境リスク規制における自己監督手法の機能性と限界」では、ドイツ法における企業内管理者制度を取り上げ、環境リスクの制御を企業(規制の名宛人)の「自発性」に委ねることにはやはり限界があることを確認した。即ち、企業内の環境保護組織は既存の法的規制水準をより効率的に達成することには機能性を発揮するが(これは当該企業自身にとって経済的にメリットがあるからである)、法的規制の水準を超えた環境対策を自発的に行うには「企業内組織」として本質的な限界があるということである。かくして、この点でも国家による規制水準の設定(規制的手法)はやはり放棄され得ないという結論に達した。 また、平成17年度は、これと関連して、「行政指導」により企業の「自発性」を促進し、環境負荷企業と地元住民との合意形成を促すことの法的許容性とその限界について研究を行った。近時の判例(大阪高判平成16年5月28日)は、この点につき、法治主義の観点からこうした行政指導には冷ややかな立場を示したが、従来の裁判例の分析より、自治体の行政手続条例ではなおこうした行政指導を後押しする解釈が可能であり、そのような解釈論を展開すべきことが明らかとなった。以上については、平成18年3月4日の行政判例研究会で報告を行った。近日中に、「自治研究」誌に研究成果が掲載される予定である。
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