平成17年度においては、欧州統合における価値秩序の概念の意味について検討する作業、及び、ドイツ公法学の重要概念がもつ精神科学的含意について検討する作業を、それぞれ行った。まず、第一の作業においては、精神科学哲学に由来する価値秩序概念が欧州統合をめぐる現代のドイツ公法学において重要な役割を演じていることを検討した。この検討結果については近く公表予定である。また、第二の作業においては、ドイツ公法学の精神科学的背景を、法律概念及び公法学方法論の観点から調査した。一つめには、措置法律概念を媒介として、ワイマール期を中心とする憲法理論、特に、カール・シュミットとエルンスト・フォルストホフの見解に検討を加えた。これにより、前者においては、法律概念の一般性を具体的法思考に基づくノモス概念により止揚していること、後者においては、同じく法律概念の一般性を近代の脱倫理化の産物と把握し、モンテスキューを援用しつつ国家の道徳性の回復により法律概念へ倫理を充填する試みがなされていること、がそれぞれ解明された。二つめには、行政法学方法論を素材として、同じくワイマール期にデビューした公法学者、アルノルト・ケットゲンの見解に検討を加えた。これにより、彼の公法学においては、行政法学と行政学の融合を図り「行政学」教科書の登場が見られるが、ここには現代国家における行政官僚の位置を意識し、大学における官僚養成という問題を志向する態度が見られることが、解明された。
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