研究概要 |
本研究は,現代積極国家における自由権論の在り方を研究することにより,「規制」主体としての政府だけでなく「給付」主体としての政府をも実効的に統御しうる「自由権」論を確立することを目指している。本年度は,まず,「現代国家」化が進展し始める20世紀初頭のアメリカの判例が,「給付」主体としての政府をどのように捉えようとしているのか,という点を,判例における「権利と特権の二分論」の分析を通じて,解明することに努めてきた。この研究自体は,昨年度から行ってきたものであるが,本年度の研究は,それを総括するという意味を有している。これにより,本研究の理論的前提が確立された。また,明文で生存権に代表される社会権規定を有している日本国憲法と,そのような規定を有していないアメリカ合衆国憲法との違いが,本研究にとってどのような意味を持ちうるのか,という点についての理論的解明にも従事した。この点では一定の成果が得られたが,次年度もこの研究を継続して,さらに深化させる予定である。本年度は、本研究の直接の成果という訳ではないが,本研究の目的と連関しうる日本の2つの判例についての解説を執筆する機会に恵まれた。その執筆を契機として,本研究の観点から,日本の憲法学における人権論の再検討に取り組んだ。これは,日本の人権論における本研究の位置づけを探究する意味を有している。なお,本年度の研究成果の一部は,「給付と人権」(長谷部恭男他編『岩波講座憲法第2巻人権論の新展開』所収(岩波書店,2007年刊行予定))として,公表される予定である。
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