研究概要 |
本年度は,本研究の最終年度なので,これまでの研究の総括を行った。近代立憲主義と共に成立した「自由権」論の主眼は,刑罰権行使に代表される,「規制主体」としての国家を制限することであった。しかしながら,20世紀以降の現代積極国家は,「給付主体」として,市民生活に少なからぬ影響力を行使している。本研究は,現代積極国家における「自由権」保障の研究を行うことで,「給付主体」としての国家をも実効的に統御しうる「自由権」論を確立しようとするものである。ところで,現代積極国家化が進展す中で,「給付主体」としての国家の役割が増大したが,近代国家もまた,種々の利益等を「給付」していた。そこで,「給付主体」としての役割が増大していく時期に相当する19世紀末から20世紀の末のアメリカの判例の分析を行い,「給付」と「自由権」との関係を探った。ところで,これまで日本の人権論は,「二重の基準」論に代表されるように,精神的自由と経済的自由とを区別する思考を形成してきた。このような思考は,国家が近代の消極国家から現代の積極国家へと移行してきたことと無関係ではない。そこで,本研究でも,政府による「給付」と「自由権」との関係を,精神的自由と経済的自由との異同を踏まえつつ検討を行い,現代積極国家における「自由権」論の見取り図を確立した。また,下級審判決も含めた日本の判例の研究も同時に行い,上記研究を日本国憲法の下での議論に接続させる作業も行った。
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