当年度は、本調査研究の土台作りが目的であり、実際にその徹底に費やした。まず、本課題の基本的な問題意思が、近時の租税回避事例におけるその準則の乱用に触発された面があり、本研究の結論も、租税回避への間接的であるが根源的な対処につながることから、租税回避論の根幹に接近する研究を行った。その成果が、後掲の国税庁からの委託研究に係る調査報告書であり、また、論説「LLPと租税回避の論点」である。両論考の執筆を通じ、わが国への影響が顕著な米国租税法の解釈・適用をめぐる基本的であるがこれまで必ずしもわが国で掘り下げられていなかった本質的な問題に取り組むことができた。これらの成果が契機となり、現在、私は財務省財務総合政策研究所の要請を受けて、テーマを「国際的租税回避」とする同研究所の研究会に参加しており、次年度早々に、その研究成果の公表を予定している。 ついで、当年度は、租税法学会第34回総会において、「消費課税の世界的潮流」と題する個別報告を行った。言うまでもなく、消費課税と資産償却制度はきわめて密接な関係を有し、所得税は、償却が加速的であるほど、その実質において消費税に接近し、支出時即時償却は、理論的には消費税と同じである。米国での近時の所得税改革の議論(所得税の消費税化)の追跡から、特別措置的な償却制度がもたらす税の空洞化が、税制の根幹を揺るがしかねない問題であることを浮き彫りにできた。 さらに、資産償却の出発点となる資産の取得費の決定に関する解釈上の問題に取り組んだ。付随費用の贈与時の扱いをめぐる近時注目を集めた最高裁判例を分析し、その過程で租税法上の取得費をめぐる判例、学説を丹念に当たる機会を得たのは、同じく課税のタイミングに関する基本判例を扱った後掲の租税判例百選の執筆におけるのと同様に、本研究の第一年度における考察として大変有意義であったと考える。
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