本研究の目的は、域外適用法理の歴史的・理論的展開を辿ることで、管轄権行使の理論的評価基盤を明らかにすることである。研究最終年度である本年度は、受動的属人主義・普遍主義に関する第二次対戦前までの歴史研究に一区切りをつけ(受動的属人主義については成果を公表、普遍主義については近日公表予定)、また、域外適用法理との関係で、個人責任と国家責任が峻別されたことの理論的意義についても研究に着手した。 具体的な成果は以下の通り。第一に、歴史研究の結果明らかになったことは、(1)域外の行為を規律すること自体は禁止されているわけではないが、実際の法の適用にあたっては行為地国の領域主権がその制約要因となること、(2)20世紀初頭には、領域国家は個人の行為について直接責任を負わない一方で、域内における侵害行為を防止・処罰する一般的な責任を負うと観念されるようになったこと(領域管理原則)、(3)(2)の下で、領域国が侵害行為を処罰しないことへの対応として、処罰義務違反として国家責任が追及される場合(制裁)と、他の利害関係国が域外管轄権を行使して侵害者を処罰する場合(国家機能の補完)との理論的な機能分化が見て取れること、(4)以上を踏まえるならば、慣習法の発展(受動的属人主義)や侵害法益の重大性(普遍主義)のみで管轄権の根拠を正当化するのは十分ではなく、国家責任論の発展も視野に入れて法理を再構成する必要があるということである。 第二に、第二次大戦以降の発展との関連では、個人責任と国家責任の峻別及び両者の関係が重要である。ニュルンベルク以降、個人の「国際」責任概念が登場し、それが今日の普遍主義理論にも影響を与えている。ところが、侵害法益の重大性に重きをおく従来の理論は、国家責任の追及と、個人責任の追及の一形態である普遍主義との関係を曖昧にしてしまっている。歴史研究の成果を踏まえ、両者の関係を今一度再検討する研究に着手した。
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