研究概要 |
本研究め最終年となる本年度は,ベトナムにおける「知的財産法制の整備」及び「伝統的知識」に関する法制度に調査・研究対象を絞り,研究内容の充実を図るとともに,本研究全体の成果をまとめ,「新たな」知的財産法制度の再構築という観点から研究論文を執筆した。 本研究を通じて,ベトナムにおける「フォークロアの表現」は,ベトナム社会において重要な地位を占める「文化遺産」であり「文化財」且つ財産的価値を有する「知的財産」として保護すべき存在として理解されていることが明らかとなった。有形・無形の文化遺産を保護する「文化遺産法」は,「文化財」的性質と「知的財産」的性質を同時に内包する文化遺産保護の法的枠組を構成する。加えて,1995年民法典第6部第1章「著作権」が重複適用され,文化遺産の「知的財産」的保護を行っている。「フォークロアの表現」の保護に関する法制度は,「文化財保護」と「知的財産保護」の2つの法制度とが混在する「特別な権利」制度である。ベトナムは,WTO加盟に向けた法整備の一環として1995年民法典を廃止し,2005年に民法典及び知的財産法を制定した。当該法整備にあたり,日本をはじめとして海外からめ支援が行われたが,当該支援を行った諸国や諸機関においても未だ議論の途上にある「フォークロアの表現」の取り扱いについて,2005年知的財産法は,その「知的財産」としての法的保護を明記した。 日本は,知的財産推進計画において遺伝資源や伝統的知識,フォークロアの問題の検討を挙げている。ベトナムの「知的財産法制度」は「国際水準」と評価される一方で,その運用は批判されている。日越関係は,2003年の二国間投資協定発効,2007年1月からの経済連携協定締結交渉の開始など,重要性を増している。2005年知的財産法は「フォークロアの表現」の保護制度の先進的な取り組み例であり,そのベトナム社会への受容に関して継続した調査・研究が求められているといえる。
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