本研究では、日米の社会保障制度の検証から、貧窮、所得喪失、障害といったニーズのみならず、「高齢」、すなわち一定年齢以上であることを理由に高齢者を特別に支援する根拠、「高齢保障」の正当化根拠を探っている。 今年度は、まず高齢者法の内容と実態を把握するために、アメリカの第一次資料を収集・整理した。そして、そのなかでも重要だと思われる課題について、わが国で収集した資料とあわせて検証し考察する比較研究に主眼をおいた。 第一に注目したのは、わが国の在職老齢年金制度と、同様の制度であるアメリカのEarnings Testである。アメリカにおいてEarnings Testの範囲が縮小していった過程でなされた議論を踏まえて、わが国の在職老齢年金制度をめぐる課題を検討した。これらの制度は、年金を支出する根拠を「退職(所得喪失)」におくのか、それとも「高齢」に求めるのかという、高齢保障をめぐる原理的課題を正面から問うている。しかし、こうした観点から両制度を比較した研究はこれまでになく、研究をまとめた公表論文では、斬新な視点を提供するとともに、本研究課題についてまとまった問題提起をすることができたと思われる。 第二に、なぜアメリカが高齢者を支援するかという点を考察する格好の材料となっている医療保障制度、とりわけメディケアが大幅に改革された。そこで、研究の後半では、アメリカの医療保障改革の実体を正確に把握し公表した。 この他、わが国の高齢者が直面する介護保険をめぐる課題を検討し、その一部を公表した。
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