本研究では、日米の社会保障制度の検証から、貧窮、所得喪失、障害といったニーズのみならず、「高齢」、すなわち一定年齢以上であることを理由に高齢者を特別に支援する根拠、「高齢保障」の正当化根拠を探った。 今年度は研究の最終年度であることから、第一次資料及びこれまでのアメリカでの実態調査をもとに、論文「アメリカ高齢者法の沿革」を公表した。高齢者法は、高齢者保護の根拠を検証する法分野である。アメリカ高齢者法の沿革について初めて詳細に検討した本論文により、高齢社会であるとともに法曹人口が増加するわが国の将来の姿を示唆することができた。 次に日米法学会で、国内の学際的な研究者に加えて、アメリカの高齢者法の大家であるLawrence A. Frolik教授、及び医療保障法の新進気鋭の研究者であるSidney D. Watson教授とともに「高齢者法にみるアメリカの社会保障」と題するシンポジウムを行った。申請者の報告、「アメリカにみる「高齢」保障」では、社会保障制度における高齢者の位置づけを炙り出し、アメリカにおいて、高齢者が他の国民と比べて特別な保障主体となっている実態を描き出すことができた。さらに本シンポジウムによって、「高齢者法」という法分野の存在意義や可能性を、わが国において大々的に提示することができ、今後わが国で高齢者法という法分野を発展させる上での一里塚を築くことができた。 そして昨年に引き続き、なぜアメリカが高齢者を支援するのかという点を考察する格好の材料を提供する医療保障制度改革の動向について、大統領選挙に際して各候補者が掲げる政策を検証する形で公表した。 この他、比較研究から得られた視角から、わが国の介護保険の保障範囲を高齢者のみに限定すべきか否かを検討し、その一部を公表した。
|