本年度は、「法と経済学」に関連する基礎的文献の検討を中心に進めた。とくに市場と組織のあり方に関する取引費用経済学や産業組織論の文献を中心に検討をおこない、わが国の医療法制を分析する上での示唆を求めた。このような作業を通じて得られた知識の一部は、アメリカの医療制度における反トラスト法(独占禁止法)の適用が拡大されていく過程について検討した論文を執筆する際に参考にした。また、上記の課題と平行して、本年度は医療・介護分野における社会保険システムの検討を進めた。この検討作業では、伝統的なリスク分散から保険事故の予防・被保険者の健康管理へと社会保険制度の役割が変化していることを確認した。保険事故の発生を防止する予防的な保険給付の拡大にともない、伝統的な保険者、被保険者の役割及び権利義務関係に変化が生じる可能性を検討した。このような変化のひとつとして、伝統的には故意の事故招致などを理由としていた給付制限法理に変化が生じる可能性を指摘し、これに批判的な観点から検討をおこなった。このほか、被保険者に対する情報提供のあり方及びケアマネジメントの役割、予防給付や保健事業における被保険者の費用負担のあり方、保険者による継続的な健康管理の下での被保険者の権利保護の問題などを検討を加えた。これらの問題については、医療経済学からの研究成果もみられるところであり、これらの成果を踏まえて、さらに検討を進めることとした。
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