今年度は、アメリカの雇用差別禁止法制を中心に、契約自由の原則との関係という観点から研究を行った。アメリカで初めて包括的な雇用差別禁止法制を導入したニューヨーク州の立法資料と、初期に年齢差別禁止規制を導入したマサチューセッツ州の立法資料を、現地に赴いて収集し、精査したところ、契約自由の原則との関係としての議論はみあたらなかったものの、人種差別等の禁止はむしろ自由や民主主義の理念のもとに要請されると考えられていたことが明らかになった。また、アメリカの学説においても同様に、人種差別等の禁止は、自由の理念によって基礎づけられると議論されていることが分かった。 他方で、同じアメリカの雇用差別禁止法制の中でも、年齢差別禁止の法規制は、違った系譜のものと把握しうることが、立法資料を分析することにより明らかになってきた。例えば初期の州法の一つである、1937年に制定されたマサチューセッツ州法の立法資料は、年齢差別禁止を高齢者の生活保障の手段の一つとして導入すべしとしており、自由の理念から求められるものとは位置づけていなかった。そのため、年齢差別禁止法については、法の適用対象者は限定される傾向にあり、また例外が広く認められるなど、一般的な差別法理と比較しての特質があることが明らかとなった。 当初予定していた日本の雇用差別禁止規制およびEC指令についての分析は、時間の制約から、十分に遂行することができなかったため、次年度に取り組むこととしたい。
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