本研究では、欧州・米国の雇用差別法制を対象に、立法及び解釈運用において、契約自由への介入となることにいかなる配慮がなされているかを考察することを目的として、立法資料及び判例の展開について研究を行った。その結果、次のことが明らかとなった。 米国法については、人種差別・性差別を早期に立法で禁じたニューヨーク州等の資料をみる限り、それらが市民権の保障という趣旨に則っていることは述べられていたものの、契約自由の原則の観点から介入を控えるといったことはなかった。その後の判例をみても、たとえ女性の保護のための施策であっても厳しく審査される等、厳格な解釈がなされていた。これに対し、年齢差別については、適用対象年齢の制限を設ける等、立法段階で政策的な対応がなされていた上、差別的効果法理(差別意図がなくとも不均等な効果を及ぼすならばそれを差別と扱う法理)の適用において合理性審査のみ求める等、柔軟な解釈がなされていた。 EUでは、性差別に加え、2000年に採択された2000/74指令、2000/78指令等に応じて人種、性的指向、年齢、障害等の幅広い雇用差別規制が各加盟国で実施されている。これは基本的権利の保障の趣旨に則ったものであり解釈運用も厳格になる傾向がある。たとえば年齢差別は、雇用政策等の観点からの正当化が可能である旨明記されているにもかかわらず(2000/78指令6条1項)、ドイツの有期契約規制の52歳以上の者についての適用除外は同指令違反と判断されている。その一方、疾病を理由とする解雇は障害を理由とする解雇に該当しないと判断した判決、勤続給が間接的な女性差別に該当しないか問題となり使用者は当該職務をとる必要を具体的に立証する必要はないとした判決等、使用者の裁量の余地をより広く認める判決も出されていた。つまり、雇用差別規制を拡張する方向に単線的に進んでいるわけではないことが明らかになった。
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