平成17年度の研究実績は下記の通りである: 1.第110回日本労働法学会において「有期労働契約の新たな構想-正規・非正規の新たな公序に向けて-」を報告し、論文を執筆した。報告の内容は、従来のような「外部労働市場」と「内部労働市場」という二重構造の中で有期労働を捉えるのではなく、期間の定めがあるか否か(正規か非正規か)の区分を超え、両者を同一の規整原則の下に置くための新たなルール設定の構築を目指した点に特徴がある。特に、日本とドイツの比較を通して、有期労働契約の有効性については現行法の解釈によってあるべき姿を提示することとした。すなわち、平成15年の労基法改正によって、解雇権濫用法理を確認する強行規定(労基法18条の2)が立法化されたことにより、有期労働契約は「解雇制限に関する法律の規定を回避する目的で締結した連鎖契約は違法である」とするドイツのように、脱法行為の理論によって労働者を保護することができるとの考えを示した。もっとも、理論的な緻密さは未だ十分ではなく、平成18年度の課題である。 2.有期労働契約及びこれに従事する就業者に適用される労働法・社会保障法に関するドイツの研究状況を知るために、日本及びドイツにおいて文献リサーチを行った。特に、ドイツでは主としてミュンヘン・ベルリン・ハンブルク・ボッフムにおいて必要な資料・文献の収集と聞き取り等の調査にあたった。また、ドイツから労働法学者や弁護士等が来日していた期間に、そのうちの数名とともに京都に赴いて研究会を開催し、本研究の内容や展望についてドイツ人よりアドバイスを受けるとともに、それまでに行った調査・研究の内容についても、日本とドイツとの比較という観点から精力的な議論を行った。 なお、上記の研究が先行してしまったため、平成17年度に予定していた実態調査・聞き取り調査ができなかった。当初の予定を変更して、これらについては平成18年度に実施したいと考えている。
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