平成19年度の研究実績は下記の通りである: 1.第一に、有期労働契約の実態調査報告書に基づき、有期雇用の現状と問題点を整理するとともに、従来の判例の分析・体系化を行った。その結果、有期労働契約は、従来、雇用の継続を前提としておらず、没関係性・脱従属性が強調されてきたが、実態を見る限り、有期労働契約と期間の定めのない労働契約との境界は非常に曖昧になっていること、労働契約の人的・組織的従属性および継続性という性質は、期間の定めの有無に左右されるものではない点が明らかになった。そして、従来の正規従業員をモデルとして確立された判例による「労働契約法理」が、有期労働契約に与える影響を明らかにし、その結果、有期労働契約法規制として、手続き的規制の強化と有期雇用そのものに対する規制の強化という2方向からの法整備の必要性を提示した。 2.非正規雇用の均等待遇は、その根底にある哲学・思想的背景、すなわち、雇用における公正・正義の考え方が極めて重要である。そこで、この視点から、雇用形態上の差別は、国籍、人種、思想信条、性別による「社会的差別」とは異なり、身分的雇用管理の手段になっていること、また、合理的な理由の内容を具体化するためには、雇用差別一般の問題としてではなく、有期労働者と正規従業員との均等待遇や派遣労働者と正規従業員の均等待遇の法整備が不可欠である点を明らかにした。正規雇用と非正規雇用の「均等待遇原則」は、日本の労働法学が長年議論を続けている課題である。今後の非正規雇用の法政策を考えるに当たっては、雇用における公正・正義の議論が不可欠であり、引き続きこの観点から研究を続けていく所存である。 なお、この間の研究成果「有期労働契約に関する一考察」は学会展望『労働法理論の現在』日本労働研究雑誌572号(2008年2-3月)で取り上げられている。
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