平成18年度は、アメリカ合衆国において判決前調査制度の実態及び、量刑ガイドライン制度についての調査を実施した。前者においては、判決前調査制度は、とりわけ施設内処遇を回避すべきかどうかについて、裁判官に有効な指針を提供し得ていることが明らかになった。その背景には、プロベーションオフィサーが判決前調査の実施者を兼ねていることで、社会内処遇の成否について、より確かな見通しを示し得ていることがあると推測された。この点は、日本における制度設計の際には留意しなければならない事柄である。後者については、ガイドライン制度には連邦のものと各州のものがあり、同列には論じられないことを明らかにできたことが大きな成果であった。連邦の制度については、裁判官の裁量を極端に制限し個別事情の考慮を排除しすぎている結果、却って適正な量刑プロセスになっているとは言いがたい。しかし、州によっては、ガイドライン制度により、適度な裁判官の量刑裁量を保持しつつ、量刑過程を可視化・透明化することに寄与していると見られるものもある。この知見は、裁判員制度の下で、裁判官と裁判員の合議体に対して、どの程度の量刑裁量を与えるべきかを考える際に参考になるものである。以上の調査の結果については、次年度の成果発表に活かしていきたい。 平成18年度の成果としては、本研究テーマについての序論的考察を発表した。裁判員制度の下では感情に流された事実認定及び量刑がされるのではないかと懸念されているところ、手続二分論や判決前調査制度を導入することで、歯止めを設けることができるのではないかということを主張した。また、裁判員制度における評議にあり方を検討した論考では、事前に評議の課題を明確にし、事後に評議のあり方を検証する体制を作ることによって、評議をブラックボックス化しないことが重要であると主張した。その他、しばしば見落とされがちな逆送後の少年刑事裁判における裁判員制度という論点についての端緒となる研究を公表した。
|