本年度は1記載の現状分析作業と2記載の理論的分析作業を行った。 1 現状分析 余融庁の特定金融情報室には、この二ヵ年度で各10万件近い件数が、「疑わしい取引」として届出されている。激増と言って差し支えない状況にある。一方で世界的な取組みは、表面上は、改善状況にあり、マネーロンダリング対策に非協力的な国は二カ国に減じた。ただし、タリバーンを対象とする金融庁への取引届出要請は増加しつつあり、必ずしも十分な適用がなかったマネーロンダリング規制が実働しつつあるという分析も可能である。また、本年度においては、マネーロンダリングが取りざたされる、世間の耳目を集める事件の報道も散見した。 2 理論分析 マネーロンダリングの政策的基礎及び理論的基礎に関する、比較法的な検討を行った。そのうち、政策的基礎については、その有効性や正当性が十分に確認できるものであった。具体的には、ソフトターゲット理論などである。 それに対して、理論的基礎については、マネーロンダリング規制の先進国である、英米においても十分な基礎が解明されているわけではないことが明らかになった。特に、有害性と関連付けて犯罪化の正当化を行う考え方は、わが国の刑法基礎理論たる法益を出発点とする見解と軌を一にするが、そのような考え方においては、なお、マネーロンダリング処罰の正当化に関して大いに議論があるということを理解できた。 また、このような試みは現実と遊離したものではなく、立法段階はもちろん、起訴裁量の行使、刑の量定に際しては、犯罪としての重大性すなわち害悪が指標として確立されていることが必要となるという点を認識した。既存の犯罪との関係性を切断して議論することは有意義ではないということである。つまり、どこまでが既存の諸犯罪の延長線上に位置し、どこまで新しい性質を有するのか、という点のさらなる探求が必要となる。
|