まず、違法の統一性に関する実体法上の問題について、緊急避難を素材とし、フランス法と比較しつつ考察した。刑事と民事の交錯について、危難を転嫁される第三者保護の問題を中心にフランス法におけるfauteの理論等を参照し検討したところ、我が国の刑法37条と民法720条の整合的解釈の問題は、刑法上の違法と民法上の違法をそれぞれ独立して判断する方法によるのではなく、不当利得的構成を採りつつ違法の統一性を確保する形で解決されるべきとの結論に達した。その際、緊急避難の法的性質に関する通説である違法阻却一元説に立つと、違法の統一性を確保するのが理論上困難になるという点も明らかになった。他方、強要緊急避難事例における正犯者、共犯者間の違法の統一性についても、犯罪性借用説を基調とするフランス共犯論からえられた示唆を我が国の議論に当てはめるならば、少なくとも適法行為に対してはいかなる関与も違法と判断されるべきではなく、従って、違法の統一性を否定する最小限従属性説は採用しえないという結論に至った。ここでも、違法阻却一元説からは違法の相対性を承認せざるをえない状況に陥ることが判明した。 次に、付帯私訴がなされた場合とそうでない場合とで、刑法上の判断及び民法上の判断にどのような差異が生じるか、また、正犯者または共犯者の一方になされた付帯私訴の提起が他方にどのような影響をもたらすかについて検討した。我が国においても、フランスにおいても、緊急避難が問題となった具体的事例がきわめて少ないことから、一義的な結論は導きえず、さらなる精査が必要であるが、付帯私訴制度が違法の統一性を担保しうる枠組であることは確認された。
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