研究概要 |
本年度は、児童虐待対応の比較制度研究として、アメリカ、中でもカリフォルニア州サンフランシスコ市・郡の取り組みを取り上げ、特に、虐待通報の観点から検討を行った。 カリフォルニア州では、教師、医療関係者、あるいは公的機関に勤務する者など、法律に「通報義務者」(mandated reporter)と規定されている者は(P.C.11165.7)、18歳未満の児童に対する虐待・ネグレクトを知った時、あるいは虐待への合理的な疑いを抱いた時には、郡の福祉部(county welfare department)、または、警察、シェリフ、あるいは、郡が通報先と指定している場合には保護観察所に通報しなければならない(P.C.11165.9)。通報義務に違反すれば、軽罪で有罪となり刑罰が科されうる。サンフランシスコ郡の0-17歳児の人口は12万人弱であるが、2005年7月1日から2006年6月30日までの1年間の間に受けた児童虐待の通報は、5,845件であった。この5,845件の通報のうち、調査を行った結果、証拠に基づいて虐待・ネグレクトが確認された(substantiate)のは1,109件(19.0%)であるが、他方、虐待・ネグレクトが存在しなかった/通報が誤りであった(unfounded)ものは1,446件(24.7%)と、全通報件数の約4分の1を占めている。なお、評価は行ったが調査に至らなかったものは2,591件(44.3%)に上った。 カリフォルニア州を始め多くのアメリカの州では、虐待への合理的な疑いを抱いた場合も通報の対象に含め、さらに専門家に罰則付きの通報義務を課したことにより、通報件数は飛躍的に増加した。しかし、上記統計からも分かるように、虐待ではない、虐待と確信できないケースの方が、虐待と認定されたケースよりはるかに多い。どんな小さな疑いでも見逃さず、万が一の場合には適宜介入を行えるという点では、罰則付きの通報制度は有効だと思われる。しかし、調査に至るか否かの判断を短時間で的確に行えるhotlineのスタッフが存在しなければ、制度はパンクし、極めて重大なケースにも適切な介入ができなくなる。我が国のように、未だ、児童相談所の人的手当てが十分でない状況で、罰則付きの通報義務制度が導入された場合には、そのような事態が起こる可能性は極めて高く、罰則付き通報制度については未だ検討しなければならない点が多く残されていると言える。
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