我が国では、児童の保護を強化するために2000年に「児童虐待の防止等に関する法律」(以下、児童虐待防止法という)が制定され、既存の児童福祉法とともに、児童虐待に対する児童相談所の早期介入およびが図られている。虐待者処罰に関しても、現在、児童保護における刑事司法介入の必要性の認識が高まり、児童虐待の刑事裁判は増加し、また、虐待者への刑も重くなる傾向にあり、わが国においても効果的な児童の保護のためには、「児童の保護」と「虐待者の刑事規制」双方の検討が不可欠となってきている。この点、イギリスでは、児童の保護の水準を下げることなく、虐待者への刑事規制の強化に乗り出しており、その背景には、児童を被害者とする性犯罪者への世論の非難が高まり、性犯罪者の管理強化が強く求められようになったこと、さらに、欧州人権裁判所の判決と欧州人権条約を国内法化した1998年人権法の影響がある。 イギリスでは、虐待者への刑事規制強化策として、「誰がやったかわからない」虐待事件に関して、2004年DV、犯罪および被害者法第5条に「児童を死亡させた、死亡を許した罪」を創設し、虐待者を有罪にできない、または軽い罪にしか問えない事態を防止しようとした。さらに、2004年児童法で、一般暴行罪以外の罪に関して、児童に傷害を負わせた場合に、「しつけのために体罰をしただけだ」という「妥当な抗弁」の申立てを不可能とし、1933年児童および青少年法が認める「親が妥当な体罰を行う権利」も廃止した。保護の枠組みで対応が不可能なケースでは、児童保護のために刑事司法による介入が行われるべきであり、そのためには制度改革も止むを得ないことをイギリスの取り組みは示している。
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