本研究では、知的財産権ライセンス契約の法的構造及びその契約解釈法理につき、諸外国法の議論も参照しつつ、現行日本法を中心に分析・検討し、明らかにすることを第一の目的として、新たに生成しつつあるライセンスモデルを検討対象に取り上げ、その法的構造や解釈手法について検討することを第二の目的としていたところ、昨今、極めて重要性が高まっているオープンソースモデルに着目し、オープンソース・ライセンス全般についての法的構造に関する分析検討を重点的に行い、特に、もっとも代表的なオープンソース・ライセンスであるGPLを検討対象として、その法的構造・法的性質について詳細に分析を行った。その結果、GPLの法的位置付けについては、国際的にも議論が収束していないものの、日本法の下では著作権ライセンス契約の一類型として位置付けることがもっとも合理的な解釈であると結論に至った。もっとも、ライセンス契約としての成立性を巡っては、GPLの場合、若干課題が残るところであると認識され、この点は契約法理の見地から更なる理論研究がなされることが期待されるところである。 また、知的財産権ライセンス契約の内容に違反した場合の法的効果について深く検討し、知的財産権ライセンス契約の解釈とライセンス契約違反の場合に生じうる知的財産権侵害判断を統合的に行う法理の構築を指向した研究を本研究の第三の目的としていたところ、理論的・実務的にも明確な解決が求められている課題である、GPLに違反する行為が行われた場合における法的効果を中心として重点的に研究を行った。研究に際しては、それまでに得られた知見である著作権ライセンス契約違反行為という位置付けの下で、様々な側面から検討を行った。そして、GPL違反の場合の法的効果を巡っては、著作権侵害成否判断の問題はもとより、とりわけライセンス契約解除の要件充足の評価と契約解除を前提とした場合の効果という側面において、多くの課題が残されていることが明らかとなった。これらの問題についても、契約法理の観点から一層の研究深化が強く求められるものと考える。 本研究では、知的財産法と契約法のインタフェースとなる領域の理論研究の端緒となる成果が得られたものと考えられ、これを基に今後の研究進展が望まれる。
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