本年度の研究の主眼は、当初の計画に基づき、(1)平成17年度におこなったフォローアップ調査の成果の公表、(2)わが国における裁判例・学説の検討に置き、これと共に、消費者法の政策論議に協力・参加する機会を通して、適合性原則の検討を深めることができた。即ち、(3)前年度来の研究テーマである投資サービス領域における適合性原則と消費者信用法の領域における適正与信義務論との関係に関する研究、(4)消費者契約法の評価・見直しで検討課題とされている、消費者契約法への適合性原則の導入可能性の探求がそれである。 (1)としては、ドイツ取引所法の取引所先物取引能力制度に隣接する法制度である、『未経験者の投機取引への誘惑』に対する刑罰法規(現行23条)の判例リストの分析を基に、適合性原則のコア規範に相当する禁正規範の可能性を検討した(研究発表第2)。(2)については、「競争秩序と不法行為」というテーマで、法律時報の21世紀における不法行為法に関する特集に寄稿する機会を得た。適合性原則には投資家保護と並んで、資本市場秩序維持という機能もあるとの指摘もあるところであり、不法行為法と秩序維持という観点からの検討を進めている。 (3)については、平成17年度の販売信用研究会の検討成果を公表すると共に、産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会報告書「クレジット取引に係る課題と論点整理について」(平成18年6月7日)を受けて、経済産業省商務情報政策局取引信用課の委託に基づいて実施された欧米諸国の実態調査に委託先である三菱東京UFJリサーチアンドコンサルティングと共に実態調査にあたり(ドイツ消費者信用取引の実態調査、適正与信に関するEU指令案の動向、ドイツにおける判例の動向調査を担当)、(4)については、平成19年1月以降は、国民生活審議会の消費者契約法評価検討委員会に委員として参加しており、政策論も視野に入れながら、「適合性原則」の射程、および私法理論として正当化する可能性を検討している。(4)には、消費者契約法の平成18年改正によって消費者団体による差止請求権が導入されたことで、適合性原則の導入という改正論議が、差止の対象たり得るかという新たな課題をもたらしている。この点について、京都大学大学院法学研究科附属法政実務交流センター主催のシンポジウム「消費者団体の差止請求権」において報告の機会を得た(平成19年3月24日、於:京都大学知蘭会館、報告題目「消費者団体の差止請求権の将来像」)。同報告に大幅に加筆したものを、川井健先生傘寿記念論文集に寄稿した(脱稿済み、図書1、未刊)。
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