本年度は、適合性原則の私法理論的検討というテーマについて3つのアプローチをおこなった。当初から計画していた(1)ドイツ取引所法上の先物取引能力制度の史的研究の完成にむけた作業に加えて、わが国の消費者法の領域において、民事ルールとしての適合性原則を導入する可能性を探ることとなった。(2)消費者契約法の改正論議における適合性原則の導入可能性の検討、(3)適合性原則と適正与信義務との関係に関する検討(特定商取引法・割賦販売法改正論議との関係)がそれである。(2)については、暫定的ながら、民事ルール化の道筋としては、金融商品取引における適合性原則をそのままのかたちよりもむしろ、そのコアルールとして弱みへのつけ込み禁止規範として構成すべきではないかとの結論を得た。その結果は、川井健傘寿記念論文集に寄稿した「消費者団体の差止請求権と民事ルール」で示し、また、国民生活審議会消費者契約法評価検討委員会に参加する機会を得たことで、適合性原則は威迫・困惑類型の拡張という形で導入する可能性を探るべきとした報告書(「消費者契約法の評価及び論点の検討等について)」平成19年8月)に反映されているとおもわれる。 (1)(3)については、2007年9月よりドイツ在外研究の機会を得たことで、ハイデルベルグ金融法コロキウム主催の銀行法セミアー、ライプチヒ大学金融サービス法研究所主催のセミナーへの参加を通して、ドイツ法検討を中心に昨年度までの研究のアップデート作業を進めている。(1)ドイツ取引所法の先物取引能力制度は、EU金融商品市場指令(MiFID)のドイツ法への国内化法(FRUG、2007年11月1日施行)では、完全に消滅したため、同制度の史的研究の完成にむけて作業を進めている。(3)については、ジャンク不動産投資被害における銀行の責任をめぐるドイツ法判例の到達点を明らかにした連邦通常裁判所銀行法部のノッベ判事の講演を訳出し(雑誌論文)、現在、そこで明らかにされた課題について分析・検討をおこなっている(早稲田大学COE叢書掲載予定)。
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