本年度は、3カ年の継続研究の2年目にあたることもあり、まずは、昨年度実施したわが国における具体的な問題状況の把握と検討の結果についてまとめることにした。 とりわけ重点を置いたのは、施行後5年以上を経て、資産形成取引をめぐる紛争解決において重要な役割を演じている消費者契約法にかかわる研究成果の公表である。この点に関する第一の研究成果が、「消費者契約法の改正課題-契約取消権および情報提供義務を中心にして-」(法律時報79巻1号〔2007年刊〕である。本論稿は、消費者契約法4条に定める契約取消権の適用範囲について法律上は限定的な形で基底されているものの、学説や裁判例では消費者被害の実態に応じて柔軟な適用がなされていることを指摘したうえで、より使い勝手がよいとされる特定商取引法上の敬意役取消権に平仄を合わせる形で同条の改正を提案するという、きわめて実践的な内容をもつものである。そして、同論稿で示した問題意識をもとに、消費者契約法4条に関する裁判例の総合的・実証的研究を行ったのが、同法に関する第二の研究成果にあたる「消費者契約法4条における契約取消権の意義-その現状と課題-」(法政研究〔静岡大学〕11巻1〜4合併合〔2007年刊〕)である。これら2つの研究成果の公表を通じて、消費者契約法が資産形成取引における情報開示に果たす役割について、相当程度明らかにできたのではないかと考えている。 上記消費者契約法に関する研究のほか、本年は、証券取引法を改正する形で新たに制定された金融商品取引法など、わが国の資産形成取り引きをとりまく状況の把握に引き続き努めるとともに、ドイツにおける情報開示をめぐる法状況の研究を続けてきた。これらの成果については最終年度となる来年度に公表する予定である。 以上の通り、本年度については、当初予定したとおりの研究成果をほぼ得られたものと思料する次第である。
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